「未経験」という言葉が、これまでの経験を消してしまう
コンサルティングファームへの転職をご相談いただく方から、「自分は未経験なので」という言葉をよく聞きます。事業会社で10年、20年と実績を積んでこられた方であっても、同様です。
これは不思議な話だと思っています。その方は「コンサルティングという職種」が未経験なだけで、担当されてきた業界、動かしてきた組織、まとめてきた合意については、むしろファーム側の誰よりも詳しいことがある。それなのに、「未経験」という一語で、それらがまとめて棚上げされてしまう。
VOLVEでは、国家公務員の「調整力」について解説していますが、こちらも同じ構図です(解剖!霞が関 「調整力」はビジネスでも使える?)。自分が何を得てきたのかを言語化できていないと、その経験は自分でも見えにくくなってしまいます。謙虚さの問題ではなく、言葉がないという問題です。
VOLVEでは、業種や職種を変える転職を「越境」と呼んでいます。「未経験転職」ではなく「越境」と呼ぶのは、言い換えのためではありません。未経験という言葉が、持ち込めるはずのものまで捨てさせてしまうからです。
本記事では、越境とは何を指すのか、なぜコンサルティングファームが越境のハブになりやすいのか、そして越境にあたって何が持ち込めて何が持ち込めないのかを整理します。
越境とは、業種または職種を変える転職のこと
VOLVEでいう越境キャリアとは、業種または職種、あるいはその両方を変える転職を指します。同じ業界の同業他社に移る、同じ職種で会社だけ変える、といった転職は含みません。
私たちが実際にご支援している越境には、以下のような方向があります。
方向 | 例 |
|---|---|
事業会社 → コンサルティングファーム | メーカーの企画職から総合系ファームへ |
コンサルティングファーム → 事業会社 | 戦略ファームから事業会社の経営企画へ |
官公庁 → 民間 | 中央省庁からシンクタンク・コンサルへ |
民間 → 官公庁 | 事業会社から中央省庁の中途採用へ |
事業会社・コンサル・官公庁 → 社会課題解決の現場 | ESG・サステナビリティ関連業務や政策渉外へ |
最後の一つは、他の4つとやや性質が異なります。前の4つが「どの種類の組織へ移るか」の話であるのに対し、こちらは「何のために働くか」を軸にした越境だからです。移り先は事業会社のこともNPOや財団のこともあり、組織の種類では括れません。VOLVEではこの領域をIMPACT CAREERとして支援しています。
これらの方向は、それぞれ別の話に見えるかもしれません。ただ、越境する当人の側から見ると、やることは驚くほど似ています。これまでの経験を、移る先の評価軸の言葉に置き換える。それだけです。
そして、これらの中でコンサルティングファームは特殊な位置にあります。
なぜコンサルティングファームが越境のハブになるのか
コンサルティングファームは、越境の入口としても出口としても機能するという点で、他の転職先とやや性質が異なります。
入口が広い。多くのファームが業界を問わずに採用します。むしろ、ファーム側に不足している業界知見を持っている人が評価されることがある。事業会社での経験が、そのまま応募理由になり得ます。
出口も広い。数年在籍したのちに、事業会社の企画部門、スタートアップ、投資ファンド、起業と進路が分岐します。コンサルティングファームを経由したことで、次の越境の選択肢が増えるという構造です。
つまり、コンサルティングファームはそれ自体がゴールになる方もいる一方で、越境の中継点にもなる場所です。
このことは、応募の仕方にも影響します。「入ること」だけを目標に置くと、入った後の数年間の設計が抜け落ちます。実際、ご相談の中で「入ってから何をするか」を伺うと、そこが空白になっている方は少なくありません。
なお、ひとくちにコンサルティングファームといっても、戦略系と総合系では案件の性質も働き方も評価軸も異なります。どちらが自分の経験と接続するかについては、関連記事「戦略コンサルと総合コンサルの違い|年収・働き方・キャリアパスを徹底比較」で整理していますので、併せてご覧ください。
越境で持ち込めるもの ― 経験を「翻訳」するということ
ここからが本題です。越境にあたって、これまでの経験のうち何が持ち込めるのか。
前提として申し上げておくと、持ち込めるものは、そのままの形では持ち込めません。現職で通じていた言葉は、移った先では通じないからです。霞が関の「調整」がそうであるように、事業会社の「案件を回す」「部長を通す」といった表現も、そのままでは評価されません。
必要なのは翻訳です。そして翻訳のためには、これまでの業務のうち移る先の評価軸に届く部分を抽出する必要があります。何を訳すべきかが決まらないと、訳しようがないからです。
抽出の切り口は、大きく2つあると考えています。
領域の知識 ― その業界で何が起きているかを知っている
特定の業界・機能について、外から調べただけでは分からない水準の知識を持っていること。市場構造、商習慣、規制、主要プレイヤーの力関係、現場で実際に何がボトルネックになっているか。
これはコンサルティングファーム側が最も持ちにくいものです。ファームは業界を横断する分、個別業界の内側の解像度では事業会社の当事者に及ばないことがある。ここは越境者の側が明確に優位に立てる部分です。
職務経歴書に書く際は、「◯◯業界で10年」ではなく、その10年で何が見えるようになったかを書く。ここが翻訳の第一歩になります。
遂行のスキル ― 物事を前に進めた経験
課題を設定する、構造化する、解決策を企画する、合意を取る、実行に移す。職種が変わっても持ち越せるのは、この層です。
ここで多くの方がつまずくのは、日常的にやってきたことほど、スキルとして認識していないという点です。「毎年やっている予算折衝」「関係部署との調整」は、本人にとってはただの業務ですが、抽出すれば複数のスキルの組み合わせになっています。
たとえば営業職の方であれば、書類に書かれるのは達成率や表彰歴といった成績であることが多いのですが、ファーム側が見たいのはそこではありません。顧客の言いなりにならずに本当の課題を設定した経験や、ソリューションを企画・提案した経験のほうが、はるかに評価されます。同じ営業経験から取り出せるものなのに、書く場所が違うために書類で落ちてしまう、というのはよくあることです。
霞が関の調整力を、ドメイン知識・ステークホルダー知識・プロトコル知識、そして着地点を構想する/道のりを定める/着地点に導くという要素に分けて記述したのも、同じ作業でした。公務員の場合は業務そのものに名前がついていないため要素に分けるところから始めますが、事業会社の場合は、すでに名前のある業務の中から、どの部分が評価されるのかを見極める作業になります。
持ち込めないもの・必要なアンラーニング
一方で、越境にあたって置いていくことになるものもあります。ここを見誤ると、越境後につまずきます。
社内特有の手続き知識。どの書式で、誰の承認を、どの順番で取るか。前職で最も熟達していたことが、コンサルティングファームやクライアントに対しては当然使えません。むしろ、前職のやり方を持ち込もうとすると摩擦になります。
社内での立場と信用。「あの人が言うなら」と通っていたものが、コンサルに転職した後は全く通用せず、自身のアウトプットの品質が全てになります。前職で役職が高かった方ほど、この落差は大きく感じられます。
時間の使い方の前提。繁忙期の形、意思決定の速度、会議のリズム。特にコンサルティングファームへの越境では、案件単位で動く働き方への適応に戸惑う方がいらっしゃいます。
置いていくもの・アンラーニングにより自分の行動を変える必要があることは、問題ではありません。問題になるのは、アンラーニングをせず、自分の過去のやり方に固執することです。アンラーニングを通じて、コンサルティングファームで様々なクライアントに通用する所作を身に着けること、それ自体が成長機会です。
入社後の立ち上がりについては、関連記事「コンサル転職後に活躍する人の共通点 ― 入社後90日間で差がつく行動」も併せてご覧ください。
越境がうまくいかないとき
ご支援の中で、うまく進まない場合にいくつか共通する型があるように感じています。断定できるほどの数を数えたわけではありませんので、あくまで傾向としてお読みください。
入口だけを設計している。「コンサルに入る」ことが目標になっていて、その先が空白になっている状態です。選考でも、入社後の話になると答えが薄くなります。コンサルティングファームが中継点になりやすい場所ではあるものの、入った後に自分がやりたいこと・キャリア展望は入る前に持っておいたほうが良いです。ポストコンサルの進路については「ポストコンサルのキャリアパス|出身ファーム×タイミング×志向性で選ぶ「自分の最適解」」で整理しています。また、最初から出た先のことしか考えていない候補者と、入った後にどう活躍したいかを話せる候補者、どちらが高く評価されるのか、これも自明かと思います。
翻訳をせずに「未経験です」と話し、自分の活かせる経験を話すことを放棄してしまう。冒頭に書いたことと同じです。持ち込めるものを、自分から棚上げしてしまっている状態です。書類だけでなく、面接の場でもご自身の経験を色々と聞かれます。
選考の型に慣れていないまま臨む。特にケース面接は、経験や地頭の問題というより、形式に慣れているかどうかで結果が変わる部分があります。準備の進め方は「ケース面接対策の完全ガイド」にまとめました。
越境の方向、それぞれの詳細
本記事では越境の全体像を扱いました。方向ごとの具体的な進め方は、別記事で整理しています。
- 事業会社 → コンサルティングファーム:未経験からコンサルタントへ ― 転職を成功させるための完全ガイド
- 官公庁 → 民間:公務員からコンサルへ ― 行政経験を活かすキャリアパス
- 民間 → 官公庁:中央省庁の中途採用については、VOLVE本体サイトの公共セクターへの転職をご覧ください
- 社会課題解決の領域へ:教育、医療・福祉、環境、地域、経済安全保障などの領域については、IMPACT CAREER|ソーシャルインパクト領域の転職支援をご覧ください
まとめ
越境とは、業種または職種を変える転職のことです。そして越境を成功させる鍵は、これまでの経験を移る先の言葉に翻訳することにあります。
そのために必要なのは、これまでの業務のうち移る先の評価軸に届く部分を抽出し、伝わる言葉に置き換える作業です。地味な作業ですが、ここを飛ばして「未経験ですが頑張ります」と言ってしまうと、持ち込めるはずのものまで失われます。
VOLVEのアドバイザーは、マッキンゼーから公共セクターへ、中央省庁からファームへと、実際に越境してきた者ばかりです。経験の棚卸しと言語化からご一緒できればと思います。
